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判例ニュース 「線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた認知症の者の妻・長男は法定の監督義務者に準ずべき者に当たらない」(最高裁平成28年3月1日第三小法廷判決)

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 精神障害者と同居する配偶者と民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に該当するかどうかに関する判断を示した最高裁判例の要旨を御紹介します。
1 事案の概要
 重度のアルツハイマー型認知症であったAは,同居していた妻が目を離した隙に家を出てしまい,JRの線路に入って電車に轢かれて死亡してした。そこで,JR東海は,Aの遺族である妻と長男を相手方に対し,電車遅延等によって生じた損害賠償を請求したという事案。
2 最高裁の判断
(1)精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできない。
(2)法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,法定の監督義務者に準ずべき者として,民法714条1項が類推適用される。
(3)認知症により責任を弁識する能力のない者Aが線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた場合において,Aの妻Y1が,長年Aと同居しており長男Y2らの了解を得てAの介護に当たっていたものの,当時85歳で左右下肢に麻ひ拘縮があり要介護1の認定を受けており,Aの介護につきY2の妻Bの補助を受けていたなど判示の事情の下では,Y1は,民法714条1項所定の法定の監督義務者に準ずべき者に当たらない。
(4)認知症により責任を弁識する能力のない者Aが線路に立ち入り列車と衝突して鉄道会社に損害を与えた場合において,Aの長男Y2がAの介護に関する話合いに加わり,Y2の妻BがA宅の近隣に住んでA宅に通いながらAの妻Y1によるAの介護を補助していたものの,Y2自身は,当時20年以上もAと同居しておらず,上記の事故直前の時期においても1箇月に3回程度週末にA宅を訪ねていたにすぎないなど判示の事情の下では,Y2は,民法714条1項所定の法定の監督義務者に準ずべき者に当たらない。
3 ポイント
 精神障害者や認知症患者が第三者に損害を与えた場合において,常にその家族に賠償責任を負させるというのでは余りに酷といえます。
 本判決は,認知症患者の家族の介護の負担と被害者の救済とのバランスを図り得る判断基準を示した点に意義があるものといえます。