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判例ニュース 「花押を書くことは自筆証書遺言の押印の要件を満たさない」(最高裁判所平成28年6月3日第2小法廷判決)

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自筆証書遺言の有効要件に関する最高裁判例の御紹介です。

1 事案の概要
Aは,平成15年5月6日付けで,遺言書を作成したが,その遺言書は,Aが,「家督及び財産はXを家督相続人としてa家を継承させる。」という記載を含む全文,上記日付及び氏名を自書し,その名下にいわゆる花押を書いたものであったが,印章による押印がなされていなかった。

裁判では,花押を書くことが民法968条1項の押印の要件を満たすか否かが争われた。

※「花押」とは,書判 (かきはん) とも言われる簡略な形に変化させた自署という。自署は当初楷書で書かれたが,次第に草書体 (草名) になり,その人独特の形様に模様化したときに花押と称されたと言われている。花押の類型としては草名から変化した草名体,実名の冠,扁,旁 (つくり) などを合せる二合体,ある1字を形様化した一字体,符号ようのものや象形的なものを用いる別用体などがある。

2 最高裁の判断
「花押を書くことは,印章による押印とは異なるから,民法968条1項の押印の要件を満たすものであると直ちにいうことはできない。 そして,民法968条1項が,自筆証書遺言の方式として,遺言の全文,日付及び氏名の自書のほかに,押印をも要するとした趣旨は,遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに,重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ(最高裁昭和62年(オ)第1137号平成元年2月16日第一小法廷判決・民集43巻2号45頁参照),我が国において,印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。 以上によれば,花押を書くことは,印章による押印と同視することはできず,民法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである。」として,本件遺言書は無効である旨判示しました。

3 留意点

遺言書を作成する場合には,後に,遺言の有効性を争われることのないよう,必ず,公正証書遺言の方式で作成して頂きたいところです。

もし,遺言者の死後,所持品の中から遺言書が発見された場合には,それが有効かどうか問題となる場合がありますので,発見した方にとって有利な内容であるか否かにかかわらず,必ず,弁護士に御相談に行かれることをお勧め致します。